六月の森

今日は夏至。
北国の夏の一日は長く、十時過ぎても、まだ明るい。

蛍を見に森へ行った。
今日はめずらしく自転車ではなく歩いて出かけた。その方がこの特別の夜の雰囲気が味わえる気がしたから。
一年で一番長い一日は終わりかけていたけれど、今年一番短い夜はまだ始まっていなかった。
森の中もまだ薄明るく鳥たちが競いあうようにさえずっていた。

ア、いた。蛍だ。急いでシャッターを切るがやはりうまく撮れない。
もう一枚、ああだめ。今度はいいかな、やっぱり撮れないと、夢中で写真を撮っているうちに、気がついてみると、いつのまにかおとぎの国に迷い込んだような気がした。
知らないうちに暗くなり、鳥たちの声も聞こえなくなり、シーンとした暗い森に、何百、否、何千という蛍が飛び交い、やわらかい光を放ち、信じられないくらい神秘的な、不思議な気持ちになった。
息をとめて、目をみはり、しっかりこの光景を心の中に閉じ込めよう。写真には取れないのだから。

メルヘンのような世界をあとにするのが心残りで、ふりかえりふりかえりながら森を出た。

空には蛍の代りに、星が輝いていた。

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