例年のように、正月休みを故国で老いた母と過ごし、じゃあまた夏にね、と別れ、一月半ば、ヨーロッパに戻ってきた。まもなくして中国武漢でコロナとかいう新型ウイルスが流行りだし、正月旅行で来日した中国人によって、日本でも、感染者が増えている、というニュースに、へ~え、あら嫌だ、程度に感じていた。いつの間にか私の住むヨーロッパにも、ウイルスは入り込み、増え続け、世界中が大騒ぎになった。
武漢では都市封鎖、と聞き、一体どういうことなのかな、みんなどうやって生活しているのかな、と思っていたら、三月には、私の住むドイツもロックダウンになった。仕事はオンライン、買い物は、夫が担当し、私は、散歩以外は外にでない、近所に住む娘夫婦とも会えない日々が続いた。飛行機も飛ばない、車も走らない、青空と澄んだ空気に、皆驚き、ああ人類は科学の発展、自由を謳歌し、より裕福に、より便利にと望むあまり、地球を、自然を壊してしまったんだ、と感じた。毎日、素晴らしい好天で、夫は一日中庭で過ごした。
復活祭まで、という前提で始まった接触制限はついに夏休みまで延期され、私の予約していた日本行き飛行機はキャンセルされた。
それでも、状況はかなり良くなり、ヨーロッパ内での人の移動は再開され、北国の長い夏の一日を、自然を満喫して屋外で過ごした。
これまで、馬車馬のように、走り続けてきた私も、一度立ち止まって、人間とは、自然とは、人生とは、生きてゆくということは、家族とは、と色々考えた。音楽家である私は次々とコンサートがキャンセルされる中、何のために生きてきたのか、これから先どこへ向かって生きていこうか、と心がくじけそうになった。日本の水際対策が一向に緩和されないので、老いた母にも会えない。私が必死で努力して進んできた音楽家としての道がこんなにももろく崩れ、当然と思っていた、故国への帰国が許されない。何故か、私の人生そのものを、人格そのものを、否定された気がした。それも、たかがウイルスによって!
寒くなり、室内で過ごす機会が多くなると、また感染が拡大するとは、わかっていたことだ。そして、その通りになった。またロックダウン。
ついにこのまま、コンサートは開催できず、故国にも帰れないまま、2020年は終わるのだろうか。
でも私は負けたくない。明日はきっと明るい日になる!